稚拙な文章やメモ書き程度の感想で恥ずかしいばかりですが、少しでも自分の仕事を好きなジャンルに近づけていきたいこと、よかったなと思う本をご紹介したい気持ちです。多忙なので写真アップのみも多くなりますがすみません。
『コンビニ人間』
村田沙耶香 文藝春秋
芥川賞受賞作。もう数年が経過した作品ですが、全身の力が抜けるほど活字を追い続ける自分に気がつきます。歪んだ社会や人間関係に翻弄され、傍からは普通に見えない孤独な人間。ノンフィクションではなく、作者を通して人の心を翻訳し小説として昇華することの醍醐味を感じます。見えそうで見えない、一見平凡で異質な日常、男女二人の生活を冷酷に透明化させる物語。
『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』
スズキナオ スタンドブックス
ありきたりで退屈で精神的に遠かった「近所」という存在。「ばえる」写真が撮れない場所でも、視点を変えれば、きっと心を満たす契機は訪れるんじゃないでしょうか。多くの人がコロナ渦で会得した心境を、スズキナオさんの近況の体験から想いを綴ったこの一冊から再確認できれば。
『若いカワイイからの卒業』
遠藤舞 リットーミュージック
父子家庭に控えめな性格、埋もれた境遇からグループのリーダーに昇格した彼女がクールに語る芸能界とセカンドキャリア。ビジネス視線のリーダー論にアルバイトや整形への秘めた野心、奔放な結婚生活には自然で自由な男っぽさも。男女の垣根を超えるような生き方に共感します。グループ系アイドルにはあまり関心はないんですが、僕のような世代の定年後ではなく、若くして「セカンドキャリア」を意識せざるを得ないことに個人的に関心がありました。アイドルになることへのハードルが低くなる現状、未来の受け皿になるための活動を始めている著者。次回の書籍化も注目したいですね。
『裏切りの日本昔話』
ながたみかこ 笠間書院
急激な時の流れから徐々に放置されていく日本の昔話。あらすじや考察から導出された著者独自のリメイク版が新鮮。昔話も時代と共に姿を変えながら伝承されることの面白さを痛感します。100年後の未来、この国の昔話はどのように語り継がれているんだろう。
『厭芸術浮世草紙』
富岡多恵子 思潮社
1970年初版発行。カバーが蛍光ピンク、見返しは薔薇のパターンが強烈な著者自装。やや難解な書名でも、詩自体は即興的に飛び出してくる言葉やリズムが寧ろ楽しく感じられるほど。落語に近い。悲壮感の中に「笑い」を仕掛ける術が素晴らしい。意味などわからずとも声に出したくなります。
『キューポラのある街』
第二巻「未成年」早船ちよ 理論社
映画は当時のイタリア、フランス、中国、ソ連等でも評価され、ルイ・マル監督もコメントを寄せていた。社会的政治的側面が強く、当時の北朝鮮の楽園的な描写は日本が帰還事業を国内的に推し進めていた影響もあり、今読むとかなり違和感を感じる人も多いでしょう。とはいえ主人公は労働者、学生としての若き女性。ジュンが大人としての自我を目覚めさせる物語で、発言や思考の変化を辿るのが興味深い小説です。
『夕凪の街』
こうの史代 双葉社
あとがきで、作者が広島出身でありながら原爆のテーマを避け、他人事として生きようとしていた気持ちが正直に書かれていた。この作品は、その心に素直に向き合えたからこそ、優しさに満ち溢れ、原爆や差別の問題を静かに残酷に炙り出せたのかもしれない。
『天才はいかにうつをてなずけたか』
アンソニー ストー・著 今井 幹晴・翻訳 求龍堂
精神科医が書いた本は興味があってかなり好きな方です。フロイト「満足な人生を送っている人は想像力を働かせることはなく、不満をもつ人こそよく想像力を働かせると言える。 想像力を生む内面的な活力は満たされることのない願望・・」
『知らない人に出会う』
キオ・スターク・著 向井和美・訳 TEDブックス
日常の社会生活の中で「知らない人に声をかけたらどのようなことが起こるか」、つまり「偶然のコミュニケーションからいい変化を生み出そう」という試みとその検証。コロナ渦で人との会話自体も憚られる状況だけど、僕にとっては貴重なヒントが沢山あって今後の人生においても大切な一冊になりそう。
『カバーいらないですよね』
佐久間薫 双葉社
妻からのプレゼント。うっかり者の新人書店員と書店あるある。僕も装丁業と書店員の二刀流の夢を未だあきらめてないのですが、もし働いたらこんなピンチに毎日遭遇するのかと、楽しいようなヒヤヒヤするような疑似体験を堪能させて頂きました。
『愛される街』
三浦展 両立書房
「ファスト風土」とは、「郊外(地方)は同じ風景で画一化されている」という三浦氏が考えた概念。僕は住む場所は中央線沿いが多かったけど、自分がなぜその土地を選んでいたのかトリックのように明かされる面白さがある。文学などの創作をする方にも好まれそうな本。
『ポップス精神医学』
斎藤環ほか 日本評論社
フォロワーさんの紹介を見て購入。各精神科医の歌詞深読み感に圧倒されますね。斎藤環氏の石野真子70年代の名曲分析に注目。90年代を境に「失恋」や「失意」「孤独感」に対する美意識は変わりつつあると。夢想的、感傷的な歌詞って今は少なくなりつつあるのかな。
『中年の本棚』
萩原魚雷 紀伊国屋書店
同世代で出版業界に居場所を探す著者。父の死に直面した彼が、残された母や東京にしがみつく自分への葛藤を吐露する。石牟礼道子をはじめとする作家の著書を引用し、中年の生き方を模索。「中年になると小説が読めなくなる」は、ある評論家の話。これは痛いほどよくわかります。加齢と共に人は古典や歴史などに徐々に関心が移りますが、中年が読むべき本の世界を魚雷さんがたくさん紹介してくれます。「たそがれたかこ」などはぜひ読んでみたい漫画です。
『TAIWAN BOOKS』台湾好書
台湾文化センター
SNSでも以前から幾つか話題になっていて、『書店本事』とアニメ化された『いつもひとりだった、京都での日々』の2冊はぜひ読んでみたいですね。この冊子はデザインも綺麗でもちろん紹介されている本の装丁も素敵なものが多く、また再び訪れたい場所が台湾です。
『あやうく一生懸命生きるところだった』
ハ・ワン・著 ダイヤモンド社
「大きい夢はあったけどやっぱりだめだった」と思う人たちはたくさんいるし、これは昔から変わらない。けど今は少し残酷な時代なのかもしれないです。僕自身のことですが、40代って、知らない間に「老い」に向かい始めていて、その葛藤とどう折り合いをつけていくかがとても難しい。変わっていく自分の姿や、ついていけないことがいろいろ出てきますしね・・著者も、僕もツイッターでは10代とか20代ぐらいのつもりでやってはいます(笑)。そう考えると多少気が楽になるし、知らないことだらけでも幾分平気だったりします。
台湾の本いろいろ
フォルモサ書院にて購入
フォルモサ書院さんから先週末無事に本が到着。文字が読めないので見て楽しむ本ですが玩具の本はけっこう楽しめました。台湾にまた行ってみたいし、フォルモサ書院さんにも行ってみたい。とにかくこんな珍しい本を販売してくれて本当にありがとうございます。
『ムーミン谷の冬』
トーベ・ヤンソン・著 山室静・訳 講談社
日本のファンが多いムーミンは雨の日に合うような物語。穏やかで静かな展開に油断していると時折挿入される哲学的なセリフがムーミンの魅力です。トゥーティッキ「あんたたちは、あまりにもいろんなものを持ちすぎているのよ。思い出の中のものや、夢でみるものまでね」。文庫版も装丁が素晴らしい。
『僕たちは幽霊じゃない』
ファブリツィオ・ガッティ・著 関口英子・翻訳 岩波書店
アルバニアからイタリアに密航する少年と家族の物語。実体験がベースとなっているため、海を渡る冒頭の描写から生死を賭けた壮絶で息を呑む展開に圧倒されました。移民問題は島国の日本ではどうしても実感が湧きにくいテーマだと思いますが、比較的わかりやすい10代向けの小説を読むことでより理解が深まるのではないかと思います。
『マッドジャーマンズ ドイツ移民物語』
ビルギット・ヴァイエ・著 山口 侑紀・翻訳 花伝社
日本では馴染みが薄い移民問題も漫画という形になると、より読者層が広がりそうです。アマゾンの原書のレビューではドイツ語会話の練習におすすめと書かれてました。どのページを開いても絵が魅力的です。そして翻訳が素晴らしくセリフも心に響いてきますし、読みやすい。中学生ぐらいでも関心があればお薦めできる本です。
『「読む」ってどんなこと?』
高橋源一郎 NHK出版
A5判で文字が大きく読みやすい。数冊の本の内容を元に、従来の国語的授業から脱却しようという試み。高橋源一郎自らが選んだ本が刺激的。眠気が吹っ飛んで、いい意味で頭の中が、かき乱されるような内容でした。「違う感情で過ごす場所を持つこと」。幾つも仮面を持つことはとてもいいこと。息苦しくなれば他の自分になって戻ってくればいい。真面目と不真面目さは常に持ち合わせていたいですし。